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「帰る分の金はない」
「問題ない。あなたが心配」
私は"no problem."の後に"I worry about you."と口にしたが、それが通じているかどうかも分からない。
少しの間を置いて彼は続けた。
「でも、私はしばらく宿には戻らない」
「構わない、待つ」
「夜になるかもしれない」
「それは駄目。危ない」
「構わない。危険なのは知ってる」
「駄目。宿に戻る」
頑なにノーと言う私に対し、彼は顔をしかめた。
「君は頑固だ」
「あなたも」
それに苦笑いを見せ、男は勝手に歩き出す。彼を逃すまいと私も後を追う。
ピラミッドの周囲を回る間も同じようなやり取りをしていた。
砂漠を歩いて行こうと、スフィンクスに行こうとも私は犬のように彼に着いて回った。
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