Ⅳ.カップに溢れる祝祭を

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陽の光が射し洩れて、ステンドグラスの窓が真価を発揮している。 青や黄色、その格子模様の中心に描かれているのは、紫の塊。つややかなガラスが、果実の、描かれた葡萄の命を想わせる。本当に教会の中にいるみたいだ。 教会から洩れる、あたたかい光。それを浴びるのは、とても居心地が悪かった。 劣等も、後悔も、処罰も、弁解も懺悔も、自分から自分へしか、与える事が出来なかったから。 でも今は。 「あたし、この喫茶店(ここ)は好きで、でもこの一角はあんまり好きじゃなかったんだけど……今日、ちょっとだけ、好きになってもいいのかなって思ったよ」 不思議そうな表情をする風倉くんに、伝わらないかあと笑ってみせて……もう一言と、一礼を付け加える。 「お言葉に甘えてソレをお預け致しますが、くれぐれもご実家でお見せなきよう。絵羽の家長(私の父親)の私物を和歌月家の長男が貰い受けたようだという話は、流石の絵羽家の耳にも、入ると思いますので」 「!」 ちなみに愛煙家の父が携帯画材入れとしてそのケースを使っていたという情報は、流石に可哀そうなので伏せておく。 返す、返さないの一人芝居を始めてしまった青年の首根っこを掴み、この場所を離れることにした。 外はまだ、明るい光の海で満ちている。それでもあと少しもすれば、夜が来る。 彼女ちゃんはその暗い海の中、誰の手も届かない海の底に、潜っていくのだろう。 今度は逃げずに、隣に居よう。同じ景色には渡っていけないけれど、同じものを分かち合うことは出来る。 それは、本当は一人でない今の私でも、彼女ちゃんでも、きっと。
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