V.秘密の住処に招かれて

2/22
前へ
/173ページ
次へ
瞼を開けた先は夢の中。木と紅茶の香りが漂うテーブル、ミセの備品、いつもどおりの光景……けれど、そうじゃないものと目が合った。 一対の聡明な眼。正確にいえば、涼やかな目元の見知らぬ青年が、起きたばかりの私を見つめ、深い笑みを浮かべていた。 「うわぁ……うわぁ! 」 「本当に覚えていなさそうですね。初めまして、ではないですよ。強いて言うのであれば、紅茶の淹れ方を享受したのは誰だったのか、お考えになってみてください」 寂しそうな、それともたいして気にしていないのかわからない口ぶりに、私の記憶は引っ張り戻される。そうだ。自動湯沸かし器が居たわけでもない。この場所に来た時、確かに会話を交わした人物が、先人が居たのを思い出す。 口を開こうとして、また噤んだ私を、彼は紳士的なスマイルで対応する。 「名乗るのは初めてですから、お気になさらないでください。もし呼称していただく必要があれば、そうですね、『ジャック』、と」 「『ジャック』……」
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加