V.秘密の住処に招かれて

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湯気がゆらめく。両の手でカップの温かさを包み込んで、そっと口をつけた。 吃驚するほどの美味しさだ。かぐわしくて、上品で……遥か昔、家族で行った思い出にリンクする。これから夏を迎えるバラ園だった。色濃く咲き誇る赤や黄色の匂い。その横に立っていた、もう何色だったか教えてくれない枯れ果ての…… 「店主(レディ)店主(レディ)」 叩かれた手の音で顔を上げる。 私は軽く咳払いをして、居住まいを正す。それにしても、と紳士服のような衣装がよく似あっている青年「ジャック」は私からより広い場所に目線を広げた。 「この場所が『お店』というものになるとは思ってはいませんでした。小鳥の囀りすら聞こえてきそうですね」 「前は……『久礼倉珠歩』さんが居た時は、こうではなかったんですか?」 ジャックは一度目を見開いたものの、何かを得たように微笑んだ。まるでその名前が(キー)だったかのように、穏やかなしらべを以て、話し始める。
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