V.秘密の住処に招かれて

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 私は店のクリアテーブルに並べていた収集物の中から、薄水色の長く鋭い鉱石を二つ、抱え取り出した。縦に長い原石をそのまま削り取ったような二品。腕から少し溢れるそれは、クリアな色合いに反しずっしりと重く、砕けてしまいそうな脆さでキラキラと光り輝いていている。改めて見ると、この二つは形状が若干異なっていた。時計の長針と短針に見えなくもない。 こんな近くに置いていたのに、関連性に気づかないなんて! 頭を抱えるのも束の間にして、ものは試し。柱時計に近づく。振り子だけが鳴り響く、ホールクロックのガラス戸をゆっくりと開ける。勿論、素手で触るのは宜しくない。白手袋をはめた両手で慎重に。中心部の窪みを利用して、二本の針をあるべき場所へ戻していく。短針を15時に示し、ガラス戸を閉じた。 すると。 時計はボーン、ボーンと音を鳴り響かせる。久々に戻ってきた己の一部と調子を合わせているような、歌おうとして咳払いをしているような動作にも思えた。すると金属が軋む音を合図に、時計の針が溶け落ち始め、水になっていく。それが下段の振り子や部品達を飲み込んでいく。
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