V.秘密の住処に招かれて

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短い通路を抜けると、円柱の空間に出た。天井は何か植物でおおわれているのか、床に差し込む光は若干控えめだ。一面は書棚で囲われており、なにかアンティークめいたオブジェや標本が、本の隙間からこちらをのぞき込んでいる。すぐ横に、一台の机が置かれていた。ロールトップなので卓上の環境はわからないけれど、きっと執筆の道具や参考資料が置かれているのだろう。持ち主を長く失い閉ざされ続けたその机は、寂しそうな佇まいをしていた。秘密基地というワードとともに、開放感のある牢獄のようにも思えてしまう。珠歩さんはこの空間でも息を潜めて、筆を動かしていたのだろうか。 感傷に浸っていたせいで、私は、目の前で二つの影が揺れたことに全く気付かなかった。
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