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ほら、と二つの指が指すほう。いつの間にか開かれたロールトップテーブルに、一冊の本……だったものが置かれていた。
覗き込んだ私は思わず顔を顰める。
頁が所々に破け、文字は所々滲み、切れ切れとなっている。挿絵が描かれていたであろう場所に至っては、何故か焼け落ちていた。書かれているのに読めないそれは、見た目だけではない、本が内側から壊されていっているような印象を受ける。
その本から漂ってきた香りを、私は見知っていた。
「ねえ、そのヒーツロイスってどんな人?」
語り部のような静かな二重奏が、ヒーツロイスという人物像を紐解いていく。
「ヒーツロイスはお姫様。あの薔薇のような華やかな香り。頭もよくて、なんでもできて。街の人からも愛されてた、恵まれた女の子」
「でも、それも終わるの。お祝いのローソクを消すごとに、どんどん呪いが始まるの。抱きしめたくなるお花の香りは消えちゃって、かわりにくろい霧が広がるの」
「彼女が大好きな街の人はしんじゃった。くろい霧は街中に広がっちゃって。くろい霧の中はこわいんだって。包まれるといたくて、かなしくて、さけんじゃうんだって」
「ヒーツロイスは悲しくて怒ったんだって。優しいから怒ったんだよ? でもそうしたら」
「お城は一夜で燃えちゃったんだって」
「……」
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