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「学校というのは不思議な場所ね。人と人が邂逅しあう場所だからかしら、書斎から道を作ることは、とても簡単な事でした」
「書斎」への道は、何も私のミセだけではなかったらしい。
どこまでも暗い通路に、凛としながらも柔らかなヒーツロイスの声が響き渡る。
私と絵羽さんは、ヒーツロイスの後ろに無言のまま付き従っていた。主人の呼び出しに颯爽と登場した二人の男、姫の従者に挟まれながら。そのうちの一人は、文化祭の日、私に警告を発した、「リョク」なのだろう。彼は、探し物第一発見者の姫の微笑みとは正反対の表情を浮かべている。初めて見た彼の目は、彼女に見つかった私を、責めているようにも見えた。
夜目にも慣れてきた私たちの前で、開閉音がする。見覚えのある幼い二つの顔が、ぱっと華やいだのが見えた。とたんに、胸の表面が締め付けられる。
違う物語に住んでは居ても同じ人間の手から生み出された彼女達には、私の知りえない絆のようなものがあるのか。それとも年不相応な聡い心を持っているのからなのか。
駆け寄ってすぐに、ヒーツロイスに頭を撫でられた二人の子供の目は、盆の入った水をひっくり返したように、じわじわとにじんでいった。
そのあたたかそうな手の動きに、私はただ目を添わせることしかできない。
「学校では、いつも楽しそうにしているように見えた」
「これでも人前に立つことには慣れていますから」
空音。小さな頭から、彼女の手は美しい弧を描いて離陸する。
「あまり時間を取らせるのもよくないわね。ご存知だと思うけど、私の物語が大変な事になっていてね? 解決のためには久礼倉珠歩の存在が必要だったんだけど、どうやらそれは叶わないみたいなの。生み出しておいて逃げだしたのか文字通り筆をぼうにふったのかわかりませんが、代わりに、珠歩が持っていた力を貴女が後継した。この認識は間違っていないかしら」
無言で、私は頷く。
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