Ⅵ.二度めまして

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「……恥ずかしがって目元が赤くなったのは見た事あるけど、驚いたわ。やっぱり怒りで人は泣けるのね」 「……わかってるなら話が早いよ。貴女が誰であろうがどうでもいい。そんな異国めいた名前を使って、最初から遠くにいたかのように言うのは止めて」 文化祭での事を思い出す。率先してクラスの為に、汗一つ見せず動いていたのは誰だったか。 記念撮影の真ん中で、慣れない風ながらも笑っていた少女は誰だったか。 行きも帰りも、一緒に歩いたのは誰だったか。 初めて会った日。私の間違いを否定せず、その名前を呼ばれながら今日まで過ごしたのは―――――。 「残念だけど幻想よ、ゆら。それは私が、」 「」 抉りあうような視線が衝突して、彼女の表情は、一層険しくなっていく。 「ゆら、貴女が私を惜しいと思ってくれる事が分かればわかるほど、それは喜びじゃない、悲しくなるの。だって私はやっぱり、貴女が親愛を向ける『城名陽津子』ではないのです」 城名陽津子だったらよかったのに。そんな消える火花みたいなほそい声が、私の耳の端に届いた気がした。 刹那、目の前で、ぼう、と火が上がる。ヒーツロイスの身体をネオン色の柱が包んでいた。慄いたり、悲鳴をあげたり、目を見開いたのは、絵羽さんと、幼い双子と、私だけで、彼女自身と彼女の理解者は、一切微動だにしない。 『くろぎりのまち』に書かれた一文を思い出す。そっか。感情を溢れさせると、ヒーツロイスの身体は、炎を生み出すんだっけ。
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