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いや、まさかね……。
心の中でかぶりを振っていると、椎尾さん、とかなりの近距離から名前を呼ばれ、飛び上がる。
目の前には、私の顔をのぞき込む和歌月さん。
「何でしょう、和歌月さん」
「公演、見に来てくれてありがとう。ちょっとアクシデントもあったみたいだけれど……」
「あ……うん」
相槌を打ちながら、あれ? と首を捻る。あの火の事を、皆は覚えていないんじゃ……。
ば、と正面を向くと、静寂な表情の和歌月さんが、私の耳元に近づいた。
顰められた声は、流水のように涼やかだ。
「あの炎を消してくれたことについて、お礼とお話があるの……明後日の午後、お時間をもらってもいいかな」
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