Ⅳ.カップに溢れる祝祭を

7/28
前へ
/173ページ
次へ
ほんの一呼吸。その口は空音を挟んだ。 「少し、話の回り道をさせてください」 和歌月さんが告げる。 「……私と兄の家、『和歌月家』は少し特殊な家系です。その苗字が示す通り、代々が『歌』の才を持ち、ほとんど生業としています。芸名を名乗る事が多いので、皆本来の苗字を名乗る機会が乏しいですが……。兄は、言わずもがな。私は喉よりも、身体を動かす事の方が性に合っていたようでした。 特殊な、と言ったのには訳があります……椎尾さん、兄の歌を聞いたことは?」 私は首を横に振り、和歌月さんが続ける。 「和歌月家での『歌』の才は、ただ歌が上手い、だとか、そういう指標(レベル)ではないんです。つまるところ、聴いた者を酔わせ、その心地の主導権を握るような……お酒なんです。そして同時に、御神酒(おみき)でもある」 揃って耳を傾けていた絵羽さんが、その単語に反応した。 和歌月さんが絵羽さんに注意を払ってから……一度水を口にする。 代わるよ、と和歌月さんに提言したのは兄の風倉、否、和歌月 空夜(わかつき くうや)だった。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加