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ほんの一呼吸。その口は空音を挟んだ。
「少し、話の回り道をさせてください」
和歌月さんが告げる。
「……私と兄の家、『和歌月家』は少し特殊な家系です。その苗字が示す通り、代々が『歌』の才を持ち、ほとんど生業としています。芸名を名乗る事が多いので、皆本来の苗字を名乗る機会が乏しいですが……。兄は、言わずもがな。私は喉よりも、身体を動かす事の方が性に合っていたようでした。
特殊な、と言ったのには訳があります……椎尾さん、兄の歌を聞いたことは?」
私は首を横に振り、和歌月さんが続ける。
「和歌月家での『歌』の才は、ただ歌が上手い、だとか、そういう指標ではないんです。つまるところ、聴いた者を酔わせ、その心地の主導権を握るような……お酒なんです。そして同時に、御神酒でもある」
揃って耳を傾けていた絵羽さんが、その単語に反応した。
和歌月さんが絵羽さんに注意を払ってから……一度水を口にする。
代わるよ、と和歌月さんに提言したのは兄の風倉、否、和歌月 空夜だった。
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