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「このマントの生地って、どこで入手したの?」
マントの長さを調整していた採寸係の奈河藤さんが、ぱっと顔をあげてはにかんだ。
「これ?いい生地でしょう。洋賀先輩から譲ってもらったの!」
洋賀先輩。聞き覚えのあるワードに、首をかしげていると、
「洋賀先輩は家庭洋裁部の副部長だよ」
こうばしい香りと一緒に現れたのは、明介だった。
「おお、宇面木。もしやその手の中にあるのは」
男子生徒が明介のまわりに集まってくると、明介が天板にふれるなよ、と言ってから、それをお披露目する。
「家庭科室借りてつくってきた。毎年、家庭部では手作りのクッキーを販売してるんだ。家庭洋裁部と組んで文化祭で委託販売するっていうのはどうかな? 出し物自体面白そうだし、相互宣伝になるからうちはいいよ、って洋賀先輩からも伝言預かってる」
夢占いモチーフの形だ~! と目を輝かせる生徒たちは、明介から試食を進められると、思い思いに口の中に放り込んでいる。
あ、と両手の長いマントの袖を持ち上げていると、天板を男子生徒の一人に託した明介が私の目の前に立ち。
「はい」
私の口の中に星型のクッキーを入れ込み、横で立っていた奈河藤さんに、
「首元、2センチくらいあそびを持たせたほうがいいと思う」
それだけ言って男子生徒の輪の中に戻っていく明介。
「目測……」
「愛ね」
奈河藤さんと陽津子が呟く。
味わいたかったのに、口の中のクッキーの味はよくわからなかった。
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