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採寸から解放された私は、生徒達が行きかう廊下を歩き進めていた。
――あの布。ミセに居た時に感じたものに似てる……。
夢は夢でも、店主にとっては現実と何ら変わらず、五感も普段通りに作用している。
ただ、あの夢の世界と現実には異なる空気感が漂っていて、私の身体は常にそれで昼夜判別をつけている節があった。
その夜の雰囲気を昼の今感じるという事は今までになく、どうにも気がかりなことのように思えた。
なので、その事にぐるぐる思考を巡らせていた私は、追いかけてくるクラスメイトの存在に全く気付かず、彼女にかなりの回数名前を呼ばせてしまった事を反省した。
「ごめんね和歌月さん、考え事してて」
「大丈夫だよ、実は渡したいものがあって……」
彼女が差し出したのは、ダンス部のチケットだった。私はびっくりして和歌月さんの顔を見つめる。
「私、時間あわない。チケットも、抽選制で」
単語の詰め合わせのようになってしまった私の言葉に和歌月さんはにこり、の笑顔をひとつ。
「実は最後にもう一つ出演する枠が増えて。椎尾さんのおかげで調整することができたから、これは招待チケットなんだ」
迷惑じゃなかったら貰ってくれると嬉しいな、という和歌月さんの配慮におされ、私はおそるおそるチケットを受けとった。
「そのチケット、私の友達が明介くんに渡したものと連番なんだ」
にこり、ともう一つ笑みを加えて、和歌月さんは去っていった。
「……そういえば、明介もダンス部の公演見たいっていってたっけ」
いけない、と頬を叩いて深呼吸。今日の夜、ミセの「書斎」で調べてみるかな、と考えて、私はその疑問を夜まで取っておくことにした。
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