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いつ頃からだろうか。不思議な夢を見るようになった。夢とは得てして不思議なものではあるが、これはまた少し事情が違っている。
あまりに現実感のある夢を見た時、人は目が覚めても、すぐにはそれを夢だと認識できないだろう。それこそ普段の日常をなぞるような内容であったなら、果たしてそれが夢なのか現実なのか、区別がつかなくなることだってあるかも知れない。
では、もしもその内容というのが、実際にあった過去の一場面だったとしたなら、どうだろうか。鮮明に再現される記憶の断片。私の場合は、まるでタイムスリップでもしたような気分だった。
初めの内によく見たのは、まだ息子が幼かった頃の夢だ。現在は成人し、独り立ちした息子も、当時はやんちゃで苦労が絶えなかった。今となってはそれも良い思い出と言えるが、子供の成長を喜ばしくも寂しく思うのが、複雑な親心というもの。感慨深く過去を振り返りながら、これまで伏せていたそんな感傷が、この不思議な夢の原因なのかとも思えていた。
しかし、ある時私は、夢が持つ奇妙な特性に気が付いたのだ。夢に描かれる過去は、夢を見る度に、より古い思い出へと遡っていた。一つの記憶を見終えると、次に再生される記憶は、必ずそれ以前のものになる。そうする内に、いつしか息子を中心とした思い出は過ぎ去り、今度は妻と二人で暮らしていた頃の思い出へと切り替わって行った。私の気持ちなどお構いなしで、時が流れるのと同じように、自動でそれは進んで行くのだ。
まるで、自身の足跡を辿り、落し物でも拾いながら、来た道をずっと戻っているような感覚。本来ならばひたすら遠ざかるだけの過去に、改めて迫って行くというのは何とも面白い話だ。理由も何も分からない不可思議な現象ではあるが、いつのまにか私は、深く考えることもなく、純粋にそれを楽しむようになっていた。
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