虹は雨上がりの空に

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

虹は雨上がりの空に

「濡れた犬って、すごくちっちゃくて寂しげに見えない?」 アイドルに洗われるテレビの向こうの犬を見ながら乃里子は濡れた髪を拭いた。 「だから余計にコイツが優しいヤツに映るんだよ。それがテだな」 カウンターキッチンの向こうから保孝の不満そうな声がする。 「今の私って、あんなんだよね。惨めったらしい」 乃里子は、つい数時間前に失恋した。 教室に二人きりになれた放課後。テレビドラマのように、きっとうまくいく。 「ずっと、ずっと好きだったんです」 言うのと同時に教室のドアが開いた。 「あ、ごめん。亮くん傘持って来てないって言ってたから持ってきただけで……私……ごめんね」 そう言って閉めようとしたドアを亮が止めた。 「上川さん、俺こいつと付き合ってるんで……ごめんね」 そう言うと乃里子を教室に残して二人は行ってしまった。 ドラマの主人公は、どうやら私ではなかったようだ。 戸惑う彼女の雰囲気が優しくて、また惨めになる。 せめて性格が悪そうなら八つ当たりの相手にでもできたのに。 びしょ濡れで帰るしかない私と違って傘だって持ってる彼女は、とてもキラキラしていて―― 「虹みたいって思ったんだよね」 「星じゃなくて?」 そう言いながら差し出されたカップを受け取り替わりに濡れたタオルを保孝に渡した。 要らねぇしと言いながらも律儀にタオルを洗濯カゴに入れに行く。 「星ほどには派手じゃないの。虹って明るくてキレイだけど優しさがあるでしょ」 「よくわかんないけど。虹も雨が降らないと出てこないんじゃないの」 ソファにドカッと座って仏頂面してる保孝が初めて男らしく見えた。 確かに雨が降らないと虹は見られない。 「あんた…大人になったね」 「バーカ。中3の弟に慰められてるから彼氏もできねーんだろ」 そう言ってソファにあったクッションを投げつけてくる。 雨に濡れた私もいつか、優しい虹になれるのだろうか。 びしょ濡れで心細そうにしていた子犬はもう画面の向こうで元気に吠えていた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!