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春は好き。明るい色が町のあらゆる場所に溢れるから。殺風景だった木々たちも緑に揺れていたり、ピンクの花びらを身にまとっている。ヒトとの別れもあるけど、新しい出会いもある。
青い空を見上げ、大きく息を吸いこんだ。今日から新しい日々の幕開け。きっと楽しいことが待っている。真新しい制服に身を包み、明陽高校へと続く道を歩いていく。
不安がないと言ったら嘘になる。私と同じ中学校から明陽高校に入学した生徒はいない。唯一の友達は背中に背負っているアコスティックギターだけ。それでも、このギターがあれば寂しくない。いつだって、どんなときだって、私の傍らにいた相棒だ。
高校に入ったら、真っ先に軽音学部に入部しようと決めていた。中学校は残念ながら、吹奏楽部や合唱部しかなかったから。
校舎が見えてきた。同じ制服を着た生徒たちがぞろぞろと登校してくる。
「ねぇ、あの子。ギター背負ってる」
「重そう……」
身長154㎝の私。『後ろから見たら、ギターに手足が生えているように見える』と友人の秋穂に言われたことがある。(彼女は別の高校に通っている)
おまけに、女子がギターを担いで歩いていることが珍しいのか、みんな二度見してくる。……いや、もしかしたら本当にギターに手足が生えて歩いているのかと思ったのかもしれない。
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