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もう一人の自分にカラダを明け渡して、何日が過ぎただろう。
新しい使用人に蒼斗の恋人・桜さんを迎えた。
俺は音弥の中で断片的に目を覚ましながら彼を見守っていた。
彼は彼なりに、病院で働き、俺と同じく患者を診ていた。
俺からすれば、もう少し患者さんに親身に寄り添って欲しいと思ったが。
努力はしているらしいから、何も言わなかった。
もう一人の自分が生まれたのは丁度中学生の頃。
突然、急に誰かに意識を奪われ、気づけば、人を気絶するほど殴っていた。
何が起きたのか?分からない日々が続いた。
警察に補導され、事の重大さに気づいた父さんが俺に精神科に受診させた。
『解離性同一障害』
と診断された。
俺の中にもう一つも人格が存在していた。
丁度、自分が双子だった父に訊かされ、俺は母の命だけではなく、双子の弟か兄になったかもしれないもう一つの命も知らずに奪っていた。
その強い罪悪感のキモチに耐えられず、俺は逃れる為にもう一つの人格を作り上げてしまった。
父さんや兄貴にこれ以上迷惑は掛けたくないと強く思った俺はもう一人の自分を強引に押し込めた。でも、心の弱さが時折、彼の存在を求めた。
俺は彼を音弥と呼んだ。
音弥はすべて忘れようと飲む酒の酔いがスイッチとなり、表に出て来る。
でも、遥と結婚して、彼女の前では強い男で居たい俺は次第に音弥になる事はなくなった。断酒したせいもあるだろう。
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