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 また電車がせわしなく人を吐き出し、飲み込んだ。  反対に僕はゆっくりと鉄格子をつかみながら膝を落とした。肝心の「では、どうすればいいか?」がわからず、頭に大きなおもりがあるみたいだった。重くのしかかり、苦しい。  ドサリと鞄が肩から落ち、紙が小さなポケットから顔を出した。  そういえば、あれから『初めて』を切り取っていない。 「はは、少な」  最後にまとめてあった記録を見て、思わず笑った。  丸印で囲ってある数字は113秒。  それしかないのか。僕の初めては、これしかないのか。これだけしか、何かを感じていなかったのか。  そう思ったら、急に目の前が滲んだ。 「うっ……ぐ」  初めて、外で泣いた。  初めて、例えようのない感情が生まれた。  初めて、悔しいと思った。  初めて、激しい頭痛を感じた。  初めて、息がうまく吸えなかった。  初めて、地面を見つめた。  初めて、そこにしっかりとついている手を見た。  初めて、ちゃんと生きたいと思った──
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