序章

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 物憂げな営業中のサラリーマン。初々しい中学生のカップル。携帯ゲームに熱中する子供たちまで。寡黙に咲き誇りながら、住民たちに静かに寄り添い続けている。そして今年も、間も無くその役割を終え、想いを空に帰そうとしていた。     黒山公園からの帰り道。葉子は唐突に、いつもはしない話を始めた。 「私と兼くんって、いつまで一緒にいられると思う?」    葉子はお喋りだ。いつも俺をからかうかのように、つかみどころのない話をする。対照的に、シャイで素っ気ない僕の、戸惑うような反応が面白いのか、よく笑う。肩にかかるくらいのサラサラのストレートヘアは、風が吹く度に艶やかにたなびいて、とても奇麗だ。  ぱっちりと開いた目の奥の深い瞳に、見つめられると吸い込まれそうで、いつも目のやり場に困る。いい加減慣れなさいよ、と背中を叩かれるのだが、そんな僕の反応が可愛いと言って、いつも嬉しそうだ。 「結婚という約束は、いつまで有効なのかな」    二人の足音が、柔らかい風に紛れて響く。その音が重なりそうで重ならないまま、小さく刻が過ぎていく。 「二人の気持ちが変わらないままなら……永遠なんじゃない?」    一瞬聞こえたかな? と不安になるくらいのトーンだったが、葉子はおもむろに僕の背中をバシッと叩く。 「そうか」    そう言って、今度は僕の右手を握りしめて、笑いながら言った。 「そうかそうか」       
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