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竈から低温で焼いていたパンを取り出して手近な皿に積み上げ、果物の入った籠、山羊のミルクの入った壺とコップ、城から送られたワインなどを並べる。
「すごい手際だね」
「……そういえば、割とこういうのは苦でもない。独り身の道楽だな」
目を丸くする詩人が、少しだけ不慣れな所作で椅子に腰掛ける。
「そういえば、こうして座るのって久しぶりだなあ」
異国の竪琴を膝に載せ、縦に構える。
『東の島には椅子がないの?』
「いろんな敷物があって、そこに直で腰掛けるんだ。草で編まれたり、毛皮だったり、織物だったり………最初は慣れなかったんだけど、島に長くいたせいで、座り方を忘れるところだったよ」
「東の島か。長く旅をしていたが、渡る機会はなかった。美しい場所だ、という話は聞いたことがある」
ベルモンテが、少し寂しそうに微笑む。
「………そう、美しい場所だった。金銀珊瑚で彩られた館に、心優しい人達、四季折々の花々、海の風も、山の香りも豊かな小さな島。僕みたいな流浪の民が、2年も居着いてしまうくらいにね。………一体、どこから話せばいいのかな」
ミーンフィールド卿が眉を寄せる。
「もしや……」
「………入江姫、話してもいいかな。島で起きたことを」
隣に腰掛けた姫君が、静かに頷いた。
「よかろう」
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