第8話 龍と鷲と「花の剣」

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第8話 龍と鷲と「花の剣」

「翼か頭を狙え!!!」  森の中に大砲の音が響く。 「駄目ですヘクター卿!当たってはいるようですが、あまり効いていない……」 「矢も無駄だったと言っていたな……何か魔法的なものだろうか。アルティスには魔法使いが少ない……だが嘆いてもしょうがない。大砲も効かないとなれば、そうだな、とにかく進路を妨害するんだ!」 「了解です!」 「ドラゴンが降りてきたら大砲を捨てて森へ逃げ込め!私達に興味は持たないはずだが、大砲に怒ることはあるかもしれない」 「わ、分かりました。存分に……挑発してやりましょう!」  威勢はいいが、やはりドラゴンと対峙するのは誰とて恐ろしいのだろう。ヘクター卿は瞬時考えて言ってやる。 「よし、皆よく聞け!!アルティスの力で麗しきかのカールベルクを助けてやるんだ。さすればかの若く美しく宝石よりも美しいと称される女王陛下が、粒揃いの真珠の如きの如き侍女達と共に、我が国の舞踏会に馳せ参じて下さる可能性もゼロではないぞ!」  北部と南部の兵達が揃って歓声を上げる。この事後承諾満載の叱咤激励を、頭の中でこっそりカールベルクの女王陛下に詫びつつ、弟のオルフェーブルに何と手紙を書いていいものかをこっそりと考えながら、彼の一番上の兄、カンタブリア家の長男のヘクター卿が小さく息を吐く。 (ガエターノの速さならもう情報が伝わったはず。カールベルク城では避難がはじまっている頃合だといいが。もう少し時間を稼いでやりたい)  弟とその臨月の妻が住まう国。二人とも要職に就いているという。城に、女王陛下に何かあれば生きては会えない、そんな気さえする。  街道に次々に大砲を設置していきながら、ヘクター卿は言う。 「頼んだぞ、皆」  迫り来るドラゴンが、霰のように地上から発射される大砲の弾を前に速度を緩める。 「高度を上げようとしたら翼を狙え!」 「了解です!!」 「襲いかかってきたらすぐに逃げるんだぞ。敵う相手じゃない」 「ああ畜生、一矢報いてやりたいんですがねえ。うちの城を粉々にしやがって。ああ、でもカールベルク城も良いところだって聞いたことがありまして」 「弟が勤めているけれど、穏やかで良いところらしい。いつかお忍びで遊びに行こうと思っていたのに」 「女王陛下にお会いしに?ヘクター卿、失礼ですが奥方様は?」 「その弟に先を越されたよ。……ああ、そうか、女王陛下か。そんな逆玉の輿なんて流石に考えてもいなかったけど、そうだな……どなたか想い人でもいらっしゃるのだろうか。あとで弟に聞き出して見るとしよう!」  緊急時、目前にドラゴンが迫っているというのに、アルティスの兵士達が愉快に笑いだした。
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