第8話 龍と鷲と「花の剣」

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 光輝きだしたバルコニーに突如現れた大鷲を見て、入江姫が呟く。 「あの魔法使いか……!!」 「喚び寄せた、いや、違う、今のは」 「自ら………変身したのか」  空は既に真っ赤に染まっている。 「ファルコさんが」 「お主の師匠を乗せて、龍に挑むと見える」 「何だって!?」  クロード医師とロビンもおもわず同時に声を上げる。騎士を乗せた大鷲が、風を纏いながら凄まじい速さでバルコニーから飛び立つのを見て、呆然と息を呑む。  聞いたこともないような巨大な咆哮が、天を割るように響いたその途端、その場にいた全員の肌に静電気のようなものが走る。反射的にテオドールが柳の枝を地面から抜いて空にかざし、叫ぶ。 「皆、伏せて!!!!」  凄まじい音と共に、城や中庭に雷が落ちてくる。柳の枝が輝き、うっすらと屋根のように中庭を満たす。呼応するように庭全体が輝き、落ちてくる雷を防いでゆく。しかし同時に、大きくしなる柳の枝に、ぴしり、と亀裂が入っていく。轟音と共に中庭の一番高い木に雷が落ち、真っ二つに木が裂け、ぱしん、と弾けるような音と共に、柳の枝が折れ、中庭の輝きが失われてゆく。 「ああ、ダメだ、もう少し………もう少しなのに!!」  そんなテオドールの真上で雷光が光る。最後の患者の縫合を終わらせたばかりのクロード医師が、手にしていた金属製の器具を全力で空中斜め上へ投げつける。テオドールの真上に落ちてきた雷が金属に引き寄せられて僅かに逸れ、地面に焦げた大穴が空く。 「と………父さん、助けてくれて、ありがとうございます。でも………ここももう危険です、お城に!」 「わかった。担架を。これで最後のひとりだ。死者を、ひとりも出さずに済んだ。お前と、皆のおかげだ」  ベルモンテが入江姫を促しながらクロード医師の車椅子を押し、ロビンとテオドールが担架に最後の怪我人を乗せ、中庭から城内へ走り込む。全員が屋根の下まで飛び込んで、息を吐いて座り込む。 「こんな形で、この城にこようとは」  全員が疲労困憊の顔を見合わせあう。 「もうこの廊下でこのまま寝てしまいたいよ……」 「我もじゃな」 「地下室はあるか。そのほうが安全だ」 「僕、ロッテに聞いてきます。陛下達もまだ上の階にいるはず……」  走り出しかけて、ふと足を止める。 「僕、その……お邪魔になったり、しないかな………」  思わずベルモンテが笑いだす。そして、ぽんぽんとテオドールの肩に掛かった煤や木の枝の欠片を払ってやりながら、言った。 「大丈夫さ。さっきは僕らを守ってくれてありがとう。おかげで全員がこうして無事でいるんだ。胸を張ってご報告に行っておいで。……ああ、それと、女王陛下に伝えてくれるかな。『素敵なレパートリーをありがとう』とね」
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