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第9話 雷鳴は轟く
「………宰相」
大砲を率いた南北混成の小隊を見送ったアルティス王が、しばしの沈黙の後に大きく息を吐いて言った。
「何でしょうか、陛下」
「そなたが馬車に乗れ。妃と王子に合流しわしの無事を知らせろ。それと、書くものは」
「宰相たるもの、いかなる時でもこれだけは持っておりますよ」
宰相が、驚いた顔も見せずに、老いた腰から下げていた筒からペンとインクと紙を取り出す。
「南のカンタブリアに救援要請を送る。もはや我が城も城下町も壊滅的だが、まだ生きているものもいるかもしれぬ」
大砲の積んであった倉庫の床で、アルティス王が紙とペンとインクを受け取った。そして、意を決した用に、その場にどっかりと腰を下ろし、紙に素早く文字を綴っていく。
「妃と王子にも伝えよ」
「最悪お二人とも人質になりますがお覚悟は」
「自国の民を救えずして何が王か。妃も分かっておろう。それに、そこの交渉を何とかしてのけるのがお主の仕事だ。老練さを存分に見せつけてやれ」
「………仰せの通りに。腕が鳴りますな」
「この倉庫の他には、冬用の備蓄倉庫がある。放出すれば炊き出しくらいは出来よう。大きな鍋があればよいが」
「………教会の鐘を使うと良いでしょう。先の戦ではそうしておりました故」
「教会か。あそこも堅牢だ。生き残りがいるかもしれぬ。行って助力を乞わねば」
「先代司教とは面識があったのですがね」
「現司教が話が分かる奴ならいいが」
紙にインクで要請をしたため終えたアルティス王からそれを恭しく受け取って、宰相が言う。
「手袋と分厚い靴を決して忘れないようになさいませ。先の戦の後の城下の再興ですが、破傷風で散々な目に遭いましてな」
「恐ろしい病だと聞く。皆にも伝えておこう。では急ぎ我が家族と合流し、この手紙を南の領主に届けるように」
「かしこまりました」
もう80歳をゆうに超えた宰相が、急ぎ足で馬車へと向かっていく。それを見送り、王が粉砕された城へとたった一人で踵を返し、早足で歩き出した。
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