第9話 雷鳴は轟く

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 目の前に城が見える。先程粉微塵にしたはずのアルティス城より幾分か小さいが、新しい城。女王陛下は即位して2年、そして2代目だという。  小ぶりだが頑強な城、整えられた街道や水路、国境の間の狭い空白地帯、貧富の差の激しい民達が集う場所を纏めあげたのが、カールベルク。新しい国だ。まだ若い新興国家ながら、騎士団もあれば、魔法使いもいる。  先代国王の手腕で、激しかった貧富の差も解消し、緑豊かで穏やかな国として今や他国にも知られてきている。そんな小国家である。  一人、銀で彩られた王の間で、帝国の王が目を閉じている。閉じる視界のその向こうに見える、紅い空を飛ぶドラゴンの視界。街に人の気配がない。既に避難をすませたのか。  アルティス城を完膚なきまで破壊し、街道沿いに一直線にやってきた。途中で何度も、何度も執拗に、アルティス国の残党兵の放つ大砲の妨害に遭ったが、それでも、そう多くは時間も与えていないはずである。 (さて、あの城に女王陛下はいるのか、それとも逃げたのか)  破壊したアルティス城跡からは王の亡骸は出てこなかった。つまり、逃亡したということだろう。直前まで兵を率いて弓を撃ってきたのは、ドラゴンの目を通して見えていた。一体どうやって消えたのか。  北部と南部の軋轢の深い国家。城下は地震で壊滅し、今後も手を取り合うとは考えにくい。50年前までは続いていたという内戦。今更南部の民が北部の王を助けるなどということがあるだろうか。  だが、何か歯車が合わない。予定調和ではない、そして自分の知らないはずの何かが、帝国の王の胸を微かに過る。今度こそだ。城を破壊し、各国の長たる王達を贄に、大陸の全てを手に入れていく。そうでなければ。  すると、突如として、目前に迫る城のバルコニーが輝きだす。アルティスにはなく、カールベルクにはあるもの。それは、魔法使い達の存在である。 「雷を!」  王の瞳が、銀色に光る。紅い瞳のドラゴンの目もまた、銀に光る。赤い空から幾重にも、轟音と共に、城へ向かって幾重にも雷鳴が走る。視界が眩く中で、何故か城の方から自分目掛けて凄まじい風が吹いてくる。途端に、 『遅ぇな』  柄の悪い声が、耳元で響く。 『……ようこそ我が国へ。歓待の時間だ。最も、時間を長くは取らせないがね』  落ち着いた、低い声も同時に響く。  雷よりも早く疾風を纏い、突如目前に現れたのは、一人の騎士を背にした巨大な一羽の大鷲だった。王が目を見張るよりも速く、顔面に凄まじい衝撃が走り、帝国の王が、銀色の玉座から転がり落ちた。
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