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顔面に凄まじい衝撃を受けて転がり落ちた王が、ゆっくりと立ち上がる。
「鷲か」
通常ではありえない大きさの鷲に、その背に乗った壮年の騎士。
「小国かと思えば、あのような隠し玉があったとは」
頭がぐらりと揺れる。王座の隣にある鏡を見ると、この帝国の歴代の長特有の銀の瞳が、燃える様に紅くなっている。制御していたはずの魂が、心を逆に染めていく。
「………これが、ドラゴンか」
神秘の獣と呼ばれる所以。己の魂が、より大きな魂に引きずり込まれていくような感覚。
この挑発を無視をし先に城を滅ぼすか、厄介な蠅達を先に潰すか。自分なら前者を選び、そう命ずるよりも早く、ドラゴンが鷲を追い、舞い上がる。今この瞬間に無理にそれを止めようとすれば致命的な隙が生じる、そう判断し、王は息を吐いて、己が操っているはずのドラゴンに、その選択を良しと命ずることにした。
「蠅二匹、潰してしまえば気も晴れよう。それからでも遅くはあるまい」
まただ、また歯車が狂う音が脳内に響く。強い酒を無理に煽ったような酩酊感にも似ているこれは何なのか。否、ただの焦りだ、と今はそう判断し、王は静かに玉座に座りなおすと、再び目を閉じた。
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