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美しい館が燃えている。愕然とそれを眺め、吟遊詩人は我に返る。
(あの姫君はご無事だろうか)
海の彼方からこの島に渡ってきて3年が経っていた。島の主に気に入られ、館の離れに滞在することを許されていた流浪の吟遊詩人、ベルモンテ・ド・フォンテーヌ、太陽のような金髪と陽気な歌声を持つ青年が、この島独自の造りの長い廊下を駆け出した。
この島で唯一自分だけが、夜の間はこの島独特のシルエットの衣装を着ずに暮らしていた。背の高く腰の位置が高い彼にちょうど合うサイズの夜着がなかった為である。攻め寄せてきた東の国の民と夜目では区別が付きにくいらしく、すれ違っても一向に咎められない。それも、館を彩る金銀珊瑚の宝飾品が、兵士達から理性を奪った後では尚更のことだった。
(東の帝国の夜襲………)
霧に紛れて近づいてきたらしい。すれ違う男達から潮の香りがする。腰からは東の帝国の民独自の幅の広い半月刀が下げられている。じゃらり、という、東の帝国の兵士達独特の鎖で出来た甲冑の音、潮の香りと血の香りがあたりに漂う煙に入り混じる。散乱する矢や刀、そして剣、倒れた人の体を乗り越え、もう何度も何度も通った部屋へと辿り着く。
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