第9話 雷鳴は轟く

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 クロード医師を背負い、広間に入っていくテオドールが、広間を見渡して聞いた。 「そういえば、ロッテは………森へ、行ったのですか」 「危ないから待つように、と言われているけれど………」  女王陛下とテオドールが顔を見合わせる。 「ファルコさんのお部屋の鳥達も?女王陛下のご命令なら、もしかすると」 「………テオドール、あなたちょっとゴードンに似てきたわね。ロッテがいれば、ファルコの鳥達に代理で命令を出せるはず。クロード卿、今の話、内密でお願いするわ。それと、鳥達に中庭の医療道具をもう一度かき集めてきて貰うわね。……あくまでも、念のためよ。生きて帰ってくるとは約束したけど、あの二人がどんなに無理無茶無謀な冒険をしていたのか、思い出したわ………」 「………お師匠様はあんまり話してくれないけど」 「聞くのならラムダ卿あたりがいいんじゃないかしら」 「やっぱりあとで聞いてきます」  女王陛下が早足でバルコニーのロッテのところへ駆けていく。ロッテが舞い上がり、鳥の魔法使いの部屋の窓へと飛び込んでいく。  その数秒後、鷲や隼といった勇猛な猛禽類達が部屋から一斉に、弾丸を放つように森へと飛び出していった。小鳥達が中庭に舞い降りて、あちらこちらに置かれたままの医療道具をかき集めはじめる。 「それで、臨月の妊婦か。暖かい床がある部屋は」 「入江姫のお部屋なら……いっぱい色々敷いてあります」 「そちらへ移動しよう。テオドール、降ろしてくれ。このご婦人に私の車椅子を持ってくるように」  テオドールが階段下へ駆け出す。 「お医者様が城にいてくれてよかったよ。まだ今のところは、大丈夫だけど。ああ、クロード卿ってもしかして、ローエンヘルム卿の……」 「かつて近習でした。今は医師をしていますが」 「ローエンヘルム卿の近習が片脚を無くした話、昔、お父様から聞いたよ。こんな形で会うなんて」 「失礼ですがご婦人、あなたの御父上は」 「前法務官ジャコモ・セルペンティシア卿。私は養い子にして一人娘のアンジェリカ。第3席。騎士団長なのにこんなところで転がってて、みっともないね……」 「第3席は『風の魔法使い』を兼ねているとお聞きしています、もしや」 「さっき最後の大仕事をしたばかりだよ」 「……腹部を、拝見しても?」 「ああ」  カーテンをそっとめくり、クロード医師が問う。 「…………成程、奥さん、食欲は」 「割とあるよ。そういや昨日あたりからだっけ」 「つまり、子ども達が腹部を少しづつ下がってきているようですな。胃を圧迫しなくなっているのでしょう。………今夜から明日ですな。よくこの緊急時に早産しなかったものです。最も、まだ緊急時であることに代わりはありませんが」  アンジェリカが息を吐いて聞いた。 「お父様があの世で守っててくれたのかもね。あのトンチキとボンクラが帰ってくるのを出迎えてやりたかったけど、どうも無理な予感がするよ」 「その薬箱は」 「産前産中産後の薬が一式入ってるってさ」  思わず薬箱を開けて効能を読み、クロード医師が息を吐く。 「どなたか知りませんが、良い薬師がいる」 「テオドールのお師匠さんだよ。ボンクラのふりして無駄に有能だから困るんだ」 「………ミーンフィールド卿が?」 「ああ、そっか。あいつが『緑の魔法使い』だって意外と知られてないんだっけ……植物のエキスパートなんだ。あいつ、あんないかにも騎士でございって言わんばかりの見た目してるのに、薬師の家生まれなんだよ」
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