第10話 帰還

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「全員帰ったな?」  入江姫達が退室した後、再び、そっと松葉杖をついてひとり入ってきたのはファルコだった。 「………何か起きていたのか」 「まあ、俺も3日は寝込んだわけだし、流言飛語の飛び交いやすい時期だが、気になる話を一つ拾った。帝国の王が代替わりするらしい」 「………代替わりか。急なことだ」 「噂によると、『王座の間で何者かに背中を刺され、雷に打たれて倒れていた』らしい。生死は定かではないけどな」 「やはり樽5杯では済まなかったという話か」 「……まさかとは思ったが、やっぱりそうだったのか」 「内密で」 「そうだな。俺達ゃあのデカブツは倒したが、それ以上の事は知らねえ」 「そういうことだ」  二人が目を見交わして、同時に息を吐く。 「しかしまさかお前が騎士団長とはなあ」 「お前とて『大魔法使い』だろう」 「アンジェリカとオルフェーヴルのありがたい監視の目が光ってるけどな」 「行事をサボって旅に出たり、山賊やら盗賊やらを勝手に討伐に出たり、領収書を全部城につけたり、我々はやりたい放題だったからな。実に愉しい日々だった」  すると、 「ええ、本当に。第一席と第二席が毎回カンカンだったのを何度取りなしたか、私、途中で回数を数えるのを諦めてしまったわ」  そこに女王陛下が入ってくる。 「女王陛下」 「というわけで、二人には怪我が治り次第キリキリと働いていただきます。……託児所を作るって言ったら城の侍女達が皆喜んでいたわ。私も、もっと勉強しなきゃいけないわね。この城はお父様が建てた城だけれど、人の考え方や、必要なものは、変わっていくのだから」 「城下は」 「騎士団達が頑張っているわ。足りない資材も街道を修繕して他国から輸入しているの。せっかくだから、アルティス国と分け合うように命じたわ。あちらの被害はこちらより深刻だもの。幸い、今年の収穫は何とかなりそうよ」 「それは良かった。そういえば女王陛下。第一席昇格、ということはこの城への移住になりますが、部屋は何処になりますかな。……あの館を、引き払わねば」 「あなたがあんなに愛していた森から引き離すのだけは、私も心苦しかったけれど、中庭に一番近い窓の大きな部屋を整備させます。図書室の隣の。それでいいかしら。引越は、怪我が治り次第でいいわ」 「そうですな。……壮行試合の前までには引っ越して来ましょう。しかしながら、どうしたものか」 「まだ問題があって?」 「片目に雹の直撃を受けたわけですが、これで私がこの顔にさらに眼帯などして公の場に出たら祝宴の場の雰囲気など一気に壊しかねませんが」 「眼帯までつけるのか?ほぼ山賊の長みたいなツラじゃねえか」  しかし女王陛下は動じる様子もなく微笑む。 「あら、ちょうど良いわ。あなたがいるだけで有象無象の貴公子からの私宛の『紙資源の無駄』が減るのでしょう?他国のレディ達は震え上がるかもしれないけれど、私は勇気あるレディが好きなの。というわけで、祝宴のサボタージュは厳禁よ。ところで、視力は問題ないの?」  こうして3人で話していると時折、女王陛下の口調というものを忘れるエレーヌが、心配げに問いかける。 「半分は落ちますが、剣にそれほど支障はありませんな」 「危うく義眼になるのを、あのクロード医師が瀬戸際まで粘って医師達を説得して手術したんだ」 「あの家族には感謝しても足りないな」 「城の階段にスロープをつける話が出ているわ。直せるだけ直して、良い城にして、次の世代に引き継がないと行けないものね」 「なるほど。次の世代か」  ファルコとエレーヌ、昔から変わることのなかった二人、そしてとうとう変わることを決めた二人を交互に見つめて、ミーンフィールド卿は意味深に微笑む。 「……そうだな。愉しみにしていよう」
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