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「望む場所へ、お連れいたそう。必ず」
兵士たちの好奇の視線に晒されながら、惨劇に満ちた館を後にする。こうも堂々と歩けば逃げているとは思われないだろう、という思惑は正解だったらしい。
すれ違う兵士達が何かを聞こうとすれば、それよりも先に「お勤めご苦労である」などという威厳に満ち満ちた言葉を投げ返す。堂々と港へ向かって歩きながら、静かに、小声でベルモンテは囁いた。
「……すまない」
姫君が呟く。
「お主と、こうして語らう日が来ようとは」
「事が露見したら連中は、僕と君を島中片っ端から探すことだろう」
彼らにとって神にも等しい王の名を騙ったのである。
「けれど、あの船は別だ。あの喫水線から察するに、おそらく今はたっぷり食料を積んでいる。あの兵士たちの分だ。食料を降ろしたらまた大陸の港に戻るはず………」
「まさか」
「密航にかけては吟遊詩人は得意中の得意なんだ。信じて」
「つまりやはりお主は悪い男ということか」
「そうだ。あの連中を騙して、こうしてあなたを盗み出している。そして、遠く、安全な地へ、連れ去ろうとしている悪い男だ」
そして、呟いた。
「………あなたの館の皆には、とても良くして頂いたのに、恩返しも出来なかった」
入江姫が、振り返る。
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