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「父も、母も、館も、我の世界の全てが燃えたが、おぬしだけが残るとは」
そのあまりにも静かな横顔が、炎に煌々と照らされる。
「一族の弔いの歌を歌ってくれる者だけを、天は我に残したのか」
「姫」
「否、否、我はそなたの陽気な歌が好きじゃ。我も、皆もそうだった。だからこれからも、そうあらねばならぬ」
悲しみと、悲しみよりもより昏く消し難い炎のような感情を胸の中に仕舞い込むように顔を両手で覆い、入江姫は掌に息を大きく吐き出した。そして吟遊詩人の青い瞳を見つめ、抱えていた竪琴を手渡し、言った。
「さあ、悪い男よ。連れてゆけ。我が、悪いことを、我から全てを奪った者を憎むことを考えぬように、道中は明るい歌を歌ってくりゃれ」
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