第1話 梔子と橘の話

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 アーチ型の窓を叩く音が微かに聞こえる。 「おはようロッテ。お見合いの話なら適当に断っておいてくれないか」  ゴードン・カントス・ミーンフィールド卿。歳の頃は40過ぎ、顔に特徴的な十字傷がある壮年の騎士が、いかにも騎士らしい貫禄をたたえた口髭を指先で整えながら、もう片方の手で窓を開けて言う。軽やかな羽ばたきの音と共に、窓から一羽の小鳥が舞い込んできた。 『うちのご主人様も女王陛下も心配してるのよ?けれどあなたの頼みだもの、いつもみたいに適当に言い繕っておくわね。おはようゴードンさん!」  騎士と魔法使いの国カールベルク。この国の騎士は、成人の証として魔法使いを伴い諸国を遍歴する風習があった。  かつて旅を共にした無二の親友でもある魔法使いファルコが女王陛下お付きの魔法使いに抜擢されて2年。城に就任した友は、『鳥に様々な力を与える魔法』の持ち主だった。そんな友が、自分との連絡係にしている小さなこの小鳥の名前はロッテという。  おしゃべり、というささやかな力を与えられた真っ白な羽の可愛らしい小鳥は、週に2度は城の様々な情報や主君や友の近況などを携えてやってきてくれる。     
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