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「羨ましいなあ。僕も、遠い国の騎士や魔法使いの物語に憧れて、吟遊詩人になったんだ。………ああ、でももしも、本当に剣や、魔法が使えていたら、あの時救えたものも、あったのかな」
吟遊詩人の青い目に影が落ちる。
「………入江姫、そう、この世で一番美しい港に、僕はただただ停泊して、いつかは去っていく宿命だったと思う。流浪の吟遊詩人だからね。それも、あんなことがなければ、の話だけど」
長い間押し殺していた不安を吐露するように、ベルモンテがぽつり、ぽつりと呟く。
「………僕はただの詩人で、本当は何も持っていない。寄る辺ない船だ。僕があなたみたいに、頼りがいのある騎士だったら、もっと良かったのにな………」
ミーンフィールド卿が珍しく、静かに微笑んで言った。
「……この世には、剣や魔法だけでは乗り越えられない苦難も、知恵と勇気を持つ詩人にしか救えないものもある」
部屋に灯したランプの灯りが、静かに微笑む男の横顔の大きな十字傷を照らす。
「そこで眠る姫君が、その証だろう」
眠っているはずの入江姫の黒い睫毛が、ほんの微かに揺れた。
「城に行かれるとよい。陛下宛の紹介状と、道中の通行手形を、私の名前で発行しよう。我らの女王陛下であれば、高貴な出自の姫君を無下に扱うことはなさるまい」
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