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心ばかりの衣類と道中の食料を積んだ馬車が用意されていた。夜の間に静かに準備を整えていたらしい。そんなミーンフィールド卿の書状を受け取り、ベルモンテが言葉を詰まらせる。
「本当に………ありがとう。何から何まで、本当に助かるよ」
「落ち着いた頃に適当に知らせをくれれば良い。困ったことがあれば城にいる我が友『鳥の魔法使い』を尋ねるように。このロッテの主人でもある」
『私、一足先にご主人様に知らせてくるわね。二人共、何かあったらすぐに駆けつけるから、なんだって言ってちょうだいね』
入江姫が微笑む。
「我の島には『一宿一飯の恩義』という言葉がある。我からは、これを」
帯を飾っていた小さな飾りを外す。親指の爪ほどの大きさの緑色の硝子玉に、白い花が彫られている。
「………そなたらと語らうと、故郷の館の門の脇で白く小さな花を咲かせていた常緑の薫り佳き樹を思い出してな。『橘』は、我が島では縁起の良い樹」
ロッテを指先に呼び寄せる。
「橘中将、そして小さな姫御前よ。そなたたちのおかげで、美しいものをひとつ、思い出せるようになった」
橘中将、という異国風の呼ばれ方に、ミーンフィールド卿の口元がほんの少し緩む。
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