第2話 針の騎士は花を描く

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 カールベルク城の最上階の一室。謁見の間のすぐ真上にある部屋のドアを開け、静かな足取りで入ってきた女が、ソファで眠っていた男を数秒の間、静かに見つめる。そして勢いよく毛布を引っ剥がし、勢いよくカーテンを開けた。 「おはようございますファルコ。お仕事の時間です」 「ちくしょう誰だよ……俺ぁ確かに『鳥の魔法使い』だが、鳥みてぇに早起きするのは苦手なんだ。もっと寝かせて……」  ファルコ・ミラー。歳の頃は30半ば。長い銀髪を適当に結んで部屋のソファで毛布を被って眠り込んでいた、女王陛下付の『鳥の魔法使い』が絶句する。 「エレーヌ………じゃねえ陛下じゃねえか!!」  エレーヌ・フェルメーア・リ・カールベルク、まだ気立ての良く明るい17歳の姫君だった頃から、この魔法使いの心の片隅を密かに占有している、茶色い髪に少し琥珀に似た明るい瞳の22歳の女王陛下が、涼しい顔で言った。 「ええ、エレーヌですよ。いいから起きなさい」     
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