第2話 針の騎士は花を描く

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「おい待て仮にも陛下の分際でむさ苦しい男の部屋にひとりで入ってくるとはどういう了見だ。城内と国内の女王陛下信奉者どもに俺が吊し上げられちまう。侍女頭と料理長あたりに知られたら一大事だ、もれなく三食メシ抜きの刑に………」 「分際で、とはひどい言い草。聞きましてロッテ?」  騒ぎを聞いて起きてきたロッテが、部屋の天井近くに掛けられた巣箱から顔を出す。そして何故か部屋の中、彼女にとっては眼下にいるこの国の君主を見て、丸い目を更に目を丸くしながら地面に降り立って、ぴょこりと小鳥ならではのお辞儀をしながら言った。 『おはようございます陛下!魔法使いなんてヤクザな商売のジメジメした男にこんなにもお優しく声をかけてくださるなんて、陛下のご慈悲があまねく大陸すみずみに広がる様、私達鳥達一同も日々の努力を惜しまぬ所存……』 「うるせえぞとっととゴードンのところに行ってこい」 『言われなくたって行くわよ。おはようご主人様、最高の朝ね。伝言はある?なんなら遺言でもいいけど』  一人と一羽のそんな『気のおけない』やり取りを微笑みながら見ていたエレーヌが、ロッテを指元に呼び寄せる。 「ミーンフィールド卿の森へ行くのですね?爪の垢を一式送ってこい、と伝えてくれますか?この人に飲ませたいのです」 「劇薬じゃねえか」 『失礼しちゃうわね』 「どいつもこいつもあの唐変木ばっか贔屓しやがって。俺も髭を生やすべきかな……」     
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