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「入江姫は館から出ることが少なかったらしい。島についての情報はベルモンテの方が詳しいくらいだが、彼もまた異邦人だ」
包みの袋を開け、指先で種を丁寧に仕分けていく。ゴードン・カントス・ミーンフィールド卿。国境近くの小さな森に住まう壮年の騎士の、大きな口髭で少し隠れた口元がわずかに緩む。
「きちんと種を一晩水に浸してくれたらしい。これで発芽率が良くなるだろう。……我が母の教育を忘れてはいなかったらしい」
『母?』
「ファルコに魔法の何たるかを教え込んだ師匠は私の亡き母でな」
部屋の机の上に、小さな額が置かれている。緑色のローブに灰色の瞳の女性と、その隣に、どことなくこのミーンフィールド卿に面差しの似た、寡黙で真面目そうな男が立っている肖像画。ひらり、とロッテがその前に降り立って、言った。
『お父様とお母様ね』
「父は私が生まれる直前に亡くなったが、母はこの秋で3周忌だ。『やんちゃな雛鳥』が女王陛下付の魔法使いになるのを見せてやりたかったがな……」
『ご主人様がやんちゃな雛鳥だった時代、もっと知りたいわ。私が聞いても教えてくれないんですもの。ゴードンさんと旅をしてた時代の話、いっぱい知りたいわ』
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