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生真面目な騎士が、人差し指を口元に当てて微笑む。
「何卒ご容赦を。レディに聞かせられるような話は少ないのでな」
椅子を引いて腰を降ろし、口元に当てた人差し指を伸ばしてロッテを招き寄せる。
「……下町の不良少年がまさか魔法使いだとは誰も思うまい。母も私も驚愕したものだ。そしてエレーヌ、そう、今の女王陛下もまだ、ご存命だった先代王妃の膝の上にいた頃だ。私達が旅をし、国に帰ってくる度に育っていく夏の若木のような姫君が、いつかは『主君』になるからそのつもりでいろ、と一応は言っておいたはずなんだがな」
そして、ちょっとだけ意味深に、片方の眉を上げてロッテに問うた。
「我が麗しき主君はご健勝かね?」
『どこぞのジメジメした魔法使いが毎日心で涙するくらいにお綺麗よ!』
「結構なことだ。お父君、そう、先代陛下が草葉の陰で腹を抱えて笑っているのが目に浮かぶな」
種の生育用の小さな容器に赤い土を詰めながら、卿が静かに微笑む。
「ベルモンテと入江姫はどうしているかね」
『女王陛下直々のご意向でお城の中でも広いお部屋を宛てがわれたわ。安全に暮らすことが出来そうね。そういえば、この館に入れるって言ってた近習の話はどうなったの?』
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