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「困ったなあ」
騎士になるべく生まれ育った少年が、森の中の館の入口で、赤毛にも近い色合いの栗毛をくしゃくしゃと掻いてもう一度呟く。
「ここでいいのかな……」
入口脇に橘の木が植えられている。最近植えられたばかりらしく、周囲の土がまだ少し新しい。蜜柑のような良い香りがほんの少し漂う。眩しい緑に映える白い花が愛らしい。花と葉を組み合わせて、夏用のドレスの図案にするのも良さそうだ。騎士のマントの襟などにさりげなく縫い込んでもお洒落かもしれない。
花を覗き込もうと腰を屈めると、腰から下げていた剣ががちゃりと音を立てて鳴った。丸で警告音の様だ。
テオドール・パーシファー・ティーゼルノット。高名な騎士である祖父の跡継ぎとして育てられた少年が、びくりと思わず背筋を伸ばす。
剣は嫌いではない。ただし、得意でもない。背が低く身体も細い自分は、剣を振り回すよりはむしろ、剣に振り回されてばかりいた。
もう15歳になるというのに、屈強な肉体にも、体力にも恵まれていない。病気がちな母に似たのかもしれない。けれど母や、医師の父、そして先代国王の片腕とも称された祖父も、そんな自分に期待してくれていたらしい。
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