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彼の顔には若かりし頃の冒険の名残でもある傷が大きく残っていた。貫禄ある口髭と相まって、この男を年齢よりもずっと上に見せている。
『ホント、どんな冒険をしたのかしらあなたとご主人様』
「いつか聞かせることもあるだろう。そういえば昨日すぐそこで苺を収穫したのだが、朝食を一緒にどうかね?」
『よろこんでご一緒するわ!』
指先を伸ばして小鳥を乗せてやり、植木鉢に見送られながら階下へと降りていく。
森の緑の気配がそのまま流れている、城とは異なる静かな館。昨日収穫したばかりの苺の入った籠を手に取ったミーンフィールド卿の肩の上で、ロッテがふと羽を揺らして聞いた。
『今、森の方から音楽が聴こえてこなかった?』
鳥というのは人間よりも数倍耳がいいらしい。
「音楽? 楽師が森で憩うにはいささか早い時間だが……」
『聴いたことがない音ね。なんかちょっと不思議な音よ。城で聞くのとは全然違うわ。遠い国のものかしら……』
広大ではないがこの森はいくつかの国境に近い位置にあった。
「見に行くか。昼頃から天気が崩れる。異国の楽師が道に迷っているのかもしれん」
『案内するわ』
籠の中から朝食代わりの苺をいくつか手にとって、ロッテを肩に乗せてやると、彼は館の外へ出て、慣れた森の奥へと歩き出した。
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