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静かな声が響く。館の中からやってきたのは、肩に何故か白い小鳥を載せた大柄の騎士だった。大きな傷が顔の縦横に走り、顎髭を蓄えた壮年の男は、白い小鳥さえ連れていなかったら相当な威圧感がある。だがしかし、それよりも、男はなぜか、一本の見覚えがあるリボンを手にしていた。
「あ、そ、そのリボンは……」
赤くなったり青くなったりしている赤栗色の髪に大きな瞳の、少し背の低い少年に、ロッテが聞く。
『誰かから貰った大事なものかしら? それとも……』
いきなり喋った白い小鳥を見て、目を見開きながら反射的に答える。
「ぼ、僕のです」
「………もしや、君が縫ったのか」
「………はい。あ、でも、その………男なのに、こういうのが好きなの、おかしい……ですよね」
情けなさと恥ずかしさ、そして、それとは少し違う、悔しさにもよく似た、まだよく知らない不可思議な感情が、突如として堰心を切ったように溢れ出す。ぽろぽろと涙がこぼれ落ちてくる。これから世話になる初対面の相手を前に、何と情けなく、恥ずかしいことだろう。とんでもない軟弱者と思われたに違いない。無理やり大きく息を吸い、少年は言った。
「………あの、今のは、見なかったことに、してください。本日から、近習としてお仕えいたします、テオドール・パーシファー・ティーゼルノットと申します」
「近習を世話することになるのは私とて初めてだ。祖父君から名前は聞いているだろうが、私の名前はゴードン・カントス・ミーンフィールド」
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