第2話 針の騎士は花を描く

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 騎士とは気の置けない仲らしい、この愛らしい小さな小鳥が、ひらりと飛び去っていく。  愛用の祖母の裁縫箱を持ち出すことも許されず、顔に大きな傷があり、人目を避けるように暮らしていると噂の『たいそうおっかない』『森の騎士』の元へ送られることになってしまったはずの少年が、どうも巷での噂や自分の想像とはまるで異なる、独特の静謐さを湛えているようにも見えるこの騎士の背中を、もう一度まじまじと見やる。 「……人目も、世俗も、好んで避けているわけではないが、年若い女王陛下の城にこんな人相の悪い騎士が大きく構えていても宜しくなかろう。それに私は森が好きでな。ここが私の私室だ。他には、特に案内するほどの広さもないが、君の部屋は用意してある。こちらだ」  卿の私室、以前ベルモンテと入江姫が泊まった客室の他にはもうひとつ、2階には空き部屋があった。机と椅子と寝台しかないが、綺麗に整えられている。 「好きに使って構わない。見たところ、随分と荷物が少ないが、本当に最小限だな。……君の様な年頃にしては、珍しい気がするが」 「えっと、それは……」     
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