第2話 針の騎士は花を描く

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 つい先日、思い切って荷物をまとめ、身分を隠して刺繍職人の元へ弟子入りしようとしたところを、父親に取り押さえられてしまったという。荷物はその時にまとめたものをそのまま持ってきていた。 「なかなかの行動力だな。見どころがある」  真顔で言うミーンフィールド卿を前に、どう返事を返すべきなのかわからず、落ち着かない風情でテオドールは椅子に座り直す。 「まあ祖父君には世話になった身だ。つまり君をいつかは立派な騎士に育てねばならん」  思わず背筋を伸ばそうとし、それでも自信のなさゆえに肩を落としながら、テオドールが答える。 「……せめて、いつかは三十席以内にって」  カールベルク王国の騎士隊でも『三十席』までは国王の謁見室に入ることができる、近衛騎士の役割が与えられていた。 「懐かしいな。私の亡き父は十九席だった。穏やかな人柄だったそうだが、先代国王を暗殺者から庇って殉職した。私の生まれる一月前だったと聞いている」 「………」 「ゆえに、剣の修行は厳しくなるだろう。三十席以内を目指すなら、尚更のこと。近衛騎士として恥ずかしくない礼節もまた教えねばならん」 「は、はい……」 「だが1階の書庫に母の裁縫箱がある。私は流石に刺繍は出来ないが、一人で館に住まうと修繕するものも多くてな。ちょうどいい。貸しておこう。そう、好きに使っていい。ただ、母は刺繍を嗜まなかったゆえ、きっと君には役不足だろうが」     
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