第2話 針の騎士は花を描く

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「騎士だった父が殉職し、私の養育には国からの補佐が出た。故に、亡き父や、女手ひとつで私を育ててくれた母、そんな我が家を救ってくれたこの国の名に恥じぬ立派な騎士になるべく修行をしていたが、私を育てた母同様、私も花や緑と語り合うのがやはり好きだった。最終的にどちらを取るかで悩んだこともあったが、私の親友の魔法使いがこう言ってな」  少し視線を遠くに投げて、心に書き留めた一字一句を思い起こすように、それでいて少し愉しげに、この壮年の騎士が言う。 「『どっちもやれるなら、どっちもやりゃあいいだけのことじゃねえか。うちの魔法使い共がゴタゴタぬかすようだったら、この俺が何とかしてやる』とな。第5席昇進がかかった試合の直前だったな……」  この男の親友というのはどうやらすこぶる痛快無比な人間らしい。一体、いかなる男なのだろう。 「それで、『森の騎士にして緑の魔法使い』その時からそう名乗っている。カールベルク城の騎士と魔法使いの名簿には、どちらにも私の名が載ることになった。……易しい道ではなかったが、騎士でありながら魔法使いでもあることが、今の私を私たらしめている」  ランプに灯りを灯しながら、ミーンフィールド卿は静かに言った。 「母は王宮で薬師を勤める魔法使いだった」  階段を降りながら、ミーンフィールド卿は呟く。 「花や草の命は長くはないが、人の命同様、針と糸で留められるものもある。見せておきたいものがある」     
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