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そういえば父は外科医である。針や糸を使うのは自分と同じなのか、とテオドールは改めて思わず息を吐く。臆病者の自分には、傷口を縫い合わせることはできなさそうだ。やはり、家の跡取りの道は厳しいのだろうか。
何となくひとり落ち込むテオドールを前に、ミーンフィールド卿は夜の館の廊下の突き当たりにある小さな書庫の鍵を開けた。
「……木々や花々と語り合い友とする、先代『緑の魔法使い』。そんな母が遺した画帳だ。騎士だった父とふたりで旅をしていた頃から、母はそれらの『友』の姿を描いていた。ここには大陸中を旅して廻っていた時に出逢った花々の姿が描き収められている。全て、ではないが」
緑色の布で装丁された数々の画帳。一冊を手渡されたテオドールが、それを開いて目を見開く。
「……すごい」
「貴婦人の役割をひとつ横取りすることになるが、代わりに貴婦人の袖を美しく彩ってやればいいだけのこと。私のよく知る『レディ』なら、刺繍が得意な騎士がいるのはとても素敵なことだ、と言うだろう」
「『レディ』?」
色事には縁のなさそうな男だが、やはりそこは『騎士』なのだろう。館の何処にも女性の影はなかったが、
「君のことは既に知っているがね」
そう言われてテオドールは目を丸くする。
「それよりも、これを」
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