第2話 針の騎士は花を描く

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 思いのほか寛容かつ大胆不敵、そして細やかな配慮も得意らしいこの穏やかな騎士が、書庫の扉を締めて呟いた。そうだ、頑張らねば。どうやらこの館には、自分が頑張っていけるだけの何かがたくさん詰まっている。ちっとも得意ではないことも、得意なことも、もしかしたらこれから得意になるかもしれないなにかも。大きな瞳を輝かせる少年に、ミーンフィールド卿は言った。 「明日から、忙しくなるな。とにかく今日は、ゆっくり休むことだ」  窓の外の気配がざわつく。 「こんな時間に客人か」  窓際に置かれた植木鉢に問いかける。 「………老騎士?まさか」  速やかに立ち上がり、手早く緑のマントを羽織ると、テオドールの部屋の灯りが既に落ちていることを片目で確認しながら静かに階下に降り、玄関を出る。  するとそこには、カンテラを手にした矍鑠とした老騎士が馬を連れ、背筋も真っ直ぐに立っていた。 「相変わらずじゃな。気付くのがまことに速い」 「おかげさまで」 「事情は聞いたか」 「はい」 「……まあわしらもそれなりに頑張ったが、騎士が針と糸に熱中できる程度の平和な国になるかどうかは、おぬしら次第よ」  若かりし頃は『炎の如き』とも呼ばれていた剛腕の騎士だったという、カールベルク第2席にして騎士団副団長、ジェイコブ・パーシファー・ティーゼルノット卿が、カンテラを片手に静かに笑う。 「テオは優しすぎる。お前のところに送っておくのが一番だと思ってな。……お前は変わり者と小さな者の扱いに長けているからな」 「そう言っていただけると恐悦至極ですが」     
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