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「阿呆鳥と唐変木が顔を揃えるのを見るのも久々じゃな。先代の墓にも詣でるように」
言うまでもなくファルコと自分のことである。
「御意に。先代陛下の霊廟の周囲の木々を手入れしにいく頃合いでした」
「陛下はローエンヘルムとこのわしを墓守にするつもりだったらしいが、わしら爺共は若い者をコキ使うのが仕事でな。頼んだぞ」
そして、館を見上げる。
「いい館だ」
「母の形見でもありまして」
「先代『緑の魔法使い』か。あの女は変わり者だが佳い薬師だった。わしとローエンヘルムが老いてもなお第1線に立てたのはあの薬師のおかげでな」
「来ていただいて光栄です」
「花の魔法使いの墓に花を供えるほど無粋ではないゆえ、あの口うるさい第2席がおまえさんの腰痛の薬を恋しがっていたとでも墓前に伝えておいてくれ」
誰の手を借りることもなく、カンテラを手にしたままひらりと馬に跨ったティーゼルノット卿が言う。そして、
「孫に、忘れ物を届けてやってくれるか」
馬の背から、一つの箱を渡す。
「裁縫箱ですな」
「よくわかったな。わしの妻の形見じゃよ。孫に預けておこうと思ってな」
そう言って、灯りのついていない館をもう一度見上げる。
「お呼びしますか」
「否。内密でよい。若い者の見る夢というものを、わしは邪魔しない主義でな」
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