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翌日の早朝、館の庭の片隅を、剣の練習用に木々や花を移動させるべく植え替えている隣で、練習用の剣を振るうテオドールが、呟いた。
「………針や糸が、お師匠様とお花みたいに、僕にも語りかけてくれたらいいのにな」
どうやらテオドールは自分のことを『お師匠様』と呼ぶことにしたらしい。朝起きたら枕元に置かれていた愛用の祖母の裁縫箱のこともあるのだろう。
ミーンフィールド卿が、少しの間の後に振り返る。色んな生き方をしてきた故に、どことなく面映い呼ばれ方だが、近習を持つ騎士として、恥じることのないようにせねばならない。
そう思ったのが通じたのか、植え替えている最中の花達が掌の上で優しく、穏やかに微笑む。
「……ああ、そうだな。いつか、語りかけて来る日もあるだろう。君次第だがね」
そして、重そうな剣をぶんぶんと振っているテオドールを見て、ミーンフィールド卿は言った。
「………軽い剣に替えるか。随分と、体格よりも重いものを持っているように見えるが」
「………はい。父が医師になる前に使っていたものです」
「父親は背が高いのだろうな。少し軽く、そして長くしたものを用意しよう」
そして言った。
「正しい場所に刺すのは、剣も刺繍針も変わりはしないだろう。そう、針に糸を通すように正確に振るえるようになれば、三十席入りも夢ではなくなる」
「本当ですか」
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