第2話 針の騎士は花を描く

30/31

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
「先代の墓参りか。ゴードンは生まれる直前に親父殿が先代をかばって殉職しちまったせいで何かと目をかけて貰ったとか何とからしいが、あの先代も、先代の奥方の王妃殿も、俺みてえな親無し根無しのヤクザ者にも平等に面倒を見てくれたな。………優しさだけを残して可愛い一人娘を置いて逝くには、二人ともちょっとばかり速かったがな……」 『………そうね。おかげで周辺各国の殿方からの有象無象のラブレターの量もすごいのよ。そのせいで私たち鳥達の情報網も充実してきているのだけど』 「そりゃあ我らが陛下は独り身の国持ち王女だ。カールベルクは立地も悪くない。そこそこ栄えている上に、騎士や魔法使いもお抱えで持ってるときてる。国の内外問わず欲しがらねえ王侯貴族がいるとは思えんな。ゴードン以外は、だが」  床に落ちていた酒瓶を拾い上げて、部屋の隅の木箱に放り込む。 「ベルモンテと入江姫にも知らせてきてやってくれ」 『わかったわ。ゴードンさんが到着するまでにちゃんとお部屋を片付けておいてちょうだい!』  ひらりと朝焼けの窓からロッテが飛び出していくのを見送って、ファルコは溜息を吐き出す。  相棒で、親友で、そこはかとなく兄のようでもある『緑の騎士』。あの隠遁者のような男も、とうとう近習を館に招いたという。 「弟子か」  まだ自分には相応しくないが、歳月は人を待ってはくれないのだ。年若かった頃からよく知り今や主君でもある麗しい女王陛下と『気の置けない』会話が出来る日も、残り多くはないだろう。『鳥の魔法使い』が立ち上がり、部屋の隅の箒を手に呟く。     
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加