【外伝】砂漠の菫の話

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【外伝】砂漠の菫の話

 自分の顔に新しい包帯を巻き直した、砂漠の王の近習が小さな声で囁いた。 「これで包帯も最後です。どうか、速くお逃げください」 「しかし貴殿と王は……」  近習が首を横に振る。外で砂漠の民の天幕が赤々と燃える炎を通し、部屋の中は夜だというのに仄明るい。菫色の瞳をした近習が、顔に大きな怪我を負いながらも、最後の最後まで砂漠の王の大天幕の護衛に残ってくれていた唯一の騎士に言った。 「あなたは遍歴の人。ここで旅を終えてはなりません。………けれどまさか、最後の最後まで残っていただけるとは」  年の頃は20代後半、カールベルクという西の小国からひとり、修行の旅の最中にやってきたという、そのまだ若い騎士が言った。 「そうやって、顔の傷を手当てしていただいた恩だ。ダリーズ卿、あなたは」  東の帝国の領土の隅にある、花も咲かない砂漠の民が住まう領地。突然の帝国の侵攻にも耐え抜いて今日でちょうど3週目だった。 「………私は、陛下を最後までお世話いたします。そう決めて、今日まで生きてきました」     
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