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ダリーズ卿。気難しい盲目の砂漠の王唯一の近習が言った。菫色の目には、そんな孤高の王へ対する美しい思慕と陶酔が、外で燃える炎の光よりも激しくちらついている。王の前では男性として振る舞うこの近習は、女性だった。
盲目の砂漠の主アルトゥーロ王。年の頃は50を過ぎた頃合の、威厳と孤独に彩られた男が、天幕の奥でひとり静かに佇んだまま問いかけた。
「………そこに残っているのは、遍歴の騎士と言ったな。名は」
「ゴードン・カントス・ミーンフィールドと申します」
「砂漠を知らぬ一介の騎士が、我が手勢の中で最後まで生き延びるとは。そこに転がっている帝国兵の甲冑を着れば落ち延びれよう。……だが、ひとつ教えてやれることがある。こちらへ」
手招きされるがままに、ミーンフィールド卿は王の前までやってきて傅く。
「………緑の魔法使いが、何故砂漠に?」
魔法が使える、ということは誰にも教えていなかったはずだが、何故にこの王はそれを知っているのだろうか。
「剣のみで己を試すには良い機会かと」
くつくつと王が笑う。
「それで帝国相手に顔に大きな傷を追うとはなかなか間抜けな騎士だ。しかしまあこの状況でここまで生き延びるとは大した者でもあるらしい。………我らが冥土に発つまで立ち会うにもよかろう。この大天幕を焼き払い、必ず落ち延びるように」
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